Classiques japonais avec furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(三)
吉川 英治
Lisez 私本太平記(三) (しほんたいへいき) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 222 108 caractères · 446 écrans
「正季どの、行こうっ。おやかたの腹はわかった」
と、語気も荒々、言い合った。
しかし、正季には、起ちきれなかった。
ここで兄と袂を分かてば、みすみす兄とも血を見るようなことにならぬかぎりもない。――その悶々たる彼をも、総立ちとなった人々をも、正成はまた、まるで知らないかのような姿だった。
「爺っ、お止めして。お止めして」
すると、見かねたのであろう。後ろの細殿の蔭から走り出た久子が、爺の恩智左近へ叫んでいた。
ただ、つつましく蔭にいるのが、妻の婦徳といわれているが、今はそんな妻の座など、顧慮していられない久子に見えた。
「皆の者、まアおちついて、坐って給もい。ようわが良人のお胸の底を、確かめてみたがよい。……いずれも、日ごろは一トかどの男どもが、なんとしたことです」
彼女の必死な宥めは、若者たちの血気な沸りにも、やや反省を抱かせて来た。いちどは座を蹴ッたもののいつかみな坐り直して、久子のことばに耳をかした。
「わが身は、正成の妻ですから」
と、久子はまず自分へも言いきかせた。
そして、良人の気もちは誰よりもよく知る者として、一同へ切言した。
正成の本心では、ほんとはもう“ぜひない運命”を覚悟している。