Classiques japonais avec furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(四)
吉川 英治
Lisez 私本太平記(四) (しほんたいへいき) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 229 324 caractères · 458 écrans
途々の正成は、初めて個人的な親しみをその迎えの者にみせて、
「治郎左。卯木は妊娠だと聞いていたが、この陣中暮らし、体のほうはどうなのか」
と、訊いたりしていた。
「は、まめにうごいておりまする。何もできはしませんが、少しでも姉ぎみのお力になれればと、幼いお子の守役など引きうけて、まあ、御合戦もよそ事みたいに」
「それはいい」
正成は、うなずいて、
「それでいいのだ」
と、また呟いた。
冬ごろから伊賀の国中も平穏でなく、服部治郎左衛門と卯木の夫婦も、正成を義兄に持つ者といわれて、小馬田ノ庄にも居られなくなり、おなじことならと、金剛山のとりでへ落ちて来たのである。――そして正成の陣中の家庭にいて、爺の恩智左近や南江正忠などと共に、搦手の一員ともなっていたのだった。
「あっ、父上だ」
どこに遊んでいたのか、目ばやく父の姿を見つけた多聞丸(後の正行)は、小さい弟と一しょに、もう迅い後ろ姿をみせて、彼方の寺房のぬれ縁へ大声を放ちながら駈けて行った。
「お母あさま。父上が来ましたよ。お待ちしていた父上が」
しかし、内には母の声もしないので、そこの角から庫裡の方へ、またも同じ叫びをくり返していた。