Classiques japonais avec furigana
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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
Lisez 私本太平記 (しほんたいへいき) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 116 638 caractères · 233 écrans
変りはてた直義の青白い顔だった。唇の端から糸のような血は見えるが苦悶したらしい痕はない。ただ落ちくぼんだ眼窩のへんには、なお四十七歳の肉体から袂別しきれぬかのような生の執着が薄青ぐろく煙っていた。
「しかたがなかったのだ、こうするよりほか!」
おまえが悪いのだと弟へ怒ッているような尊氏だった。自己への怒りと呵責なのかもしれなかった。そう言ってふとんの端を手から離して、もう二度と見る勇気も別れの惜しみもないようにその手を憮然と胸に拱んでしまった。ゆうべ信濃をして弟に鴆毒をのませたのは兄の自分である。責められるだけ責められよう。尊氏は首をふかく垂れ、自分に許容できるかぎりの罪のしもとを滝の下の一裸身みたいに浴びていた。涙は一滴も出なかった。しんしんと、肉が凍え、骨が冷え、五体もばらばらになり、その極みには、かっと熱くなって、血があたまへ逆流するのが分ってくる。
「つまりは、ひとでなしよ」
自分を嘲って、
「そもそも、ひとでなしでなければ、成就もせず、思い立ちえぬような大望をいだいて立ったのだ。いまさら何を」
と、しいてその眼を、壁の一方へそらした。
脚長の香炉台のうえに、床間掛けの横物が見える。