Classiques japonais avec furigana
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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
Lisez 私本太平記 (しほんたいへいき) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 126 598 caractères · 254 écrans
「……あ、兄上さま」
卯木は、そのまま、伏し拝んだ。兄のその手も離さず、むせび泣いた。
そばの正季も、肱を曲げて顔をかくした。――彼には、べつな意見もあったろうが、兄の言には、異存も何もありえなかった。
ただ。思うのは。
折しも、こんな大雷雨だ。
いや、こんな夜なればこそと、兄は追い立てるものらしいが、さて、この風雨の難だけでなく、六波羅放免の眼は大丈夫か。
正季が、案じて、そのことを計ると、
「――大事ない、領ざかいまでは、爺の恩智左近が郎党どもを用いて、“紛れの計”を伏せておる。また、よそながら、二人の落ちのびる道を守っていよう」
と、正成は言った。
すでに、そんな考慮までを――と正季は兄の遠謀におどろいた。兵法をけなした兄が、と常ならば笑いたかった。が、そんな間はない。卯木と元成は、あらためて、涙ながらの別れを正成の前にのべている。
すると、廊の外で、
「殿……。御当家の殿」
と、憚るような声がした。
正季が立って行って、
「たれだ?」
暗がりを見廻すと、宵に、母屋で馳走した住吉の具足師柳斎である。――虫干しも終り、あすは住吉へ帰るというので、慰労の酒をのませ、路銀手間代など与えて、寝かせておいたものだった。