Classiques japonais avec furigana
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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
Lisez 私本太平記 (しほんたいへいき) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 126 598 caractères · 254 écrans
「では、お別れ申しまする。……彼方の山が岩室で、まもなく、金剛寺の西の国分峠、あとは南へ南へと、粉河までは、山つづきです。どうぞ、おつつがなきように」
菊王も、ここではもう、疑念を一掃して、男の親切を本心から謝していた。同時に、今の機会を失ってはと、
「ま、お待ちなされ。このままの、お別れも何やら……」
と、俊基と共に、野路の石に腰をおろした。そして、途々も訊こう訊こうと思っていた、彼の妻のことを、きり出してみた。
「たしかに、どこかで見た女性には相違ないが、さて俄に、思い泛かぶところもない。それに御辺のものごしといい、よも、お夫婦とも、根からの舟芸人では、おわすまいがの?」
「これは、お買いかぶりで……」
男は、菊王に問われて、はたと、恥じらい顔だった。
「元々、ただの舟芸人にすぎませぬ。氏素姓とてない散所者。妻とて、同様にござりまする」
それは、迷惑そうというよりも、拒む風でさえあった。
「いや、さしつかえなら、悪問いは、控えよう。したが、芸名ぐらいは」
と、俊基が代って訊くと。
「オ、それも申さいでおりましたか。……イヤどうも失礼をいたしました。てまえは、申楽師と申しましても、しがない大道芸人にひとしい、杉ノ本の雨露次と申すものでございます」