Classiques japonais avec furigana
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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
Lisez 私本太平記 (しほんたいへいき) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 126 598 caractères · 254 écrans
蝶の親
「……あっ?」
と、その際、俊基が旅衣を解きかけつつ、異様な声を発したので、菊王も、故なくぎょッとしていると、
「しまった」
と、くり返して。
「菊王、何としようぞ、知らぬこととはいえ、宵のうち、わしは心もどうかしていたのであろうか。……常に肌に持っている毒薬を、旅薬の苞と間違えて、そちの手から、あの雨露次の妻へ与えてしもうたらしい」
「げっ?」
「典医寮からくれた旅薬はこれにあるが、人知れず持っていた毒薬の方が肌にない」
「では、あれや毒薬だったのでございますか。そ、そんな物を、常にお持ちとは」
菊王も仰天した。
あんなにまで、涙を流してよろこんでいた雨露次の妻である。もう今頃は、服んでしまっているにちがいない。
良人の雨露次が帰って、いかに恨むことであろうか。二人は、慄然としたが、どうしようもない。ふいに耳をついた鉢ヶ峰寺の鐘の音に打たれて、二人とも蒼白な顔を鐘の行方に俯伏せた。二人の冷たい汗は、仏の名号をとおして、無意識の罪を、一念に詫びていた。
蝶の親
「またそろそろ腹をすかして、嬰児が乳をせがみ出す頃……」
野路をいそぐ男の胸に、そんな思いがたえずあった。