Lecture japonaise

Classiques japonais avec furigana

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Lisez des classiques japonais en ligne avec furigana. Filtrez par niveau JLPT, touchez un mot pour le sens et traduisez une phrase.

しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

Lisez 私本太平記 (しほんたいへいき) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.

N2 · avancé · kanji et kana modernes · 126 598 caractères · 254 écrans

Aozora Bunko

「そんなことでは」

彼は、自分の中にいる小心恟々たるケチな小鬼を叱咤した。

機会は来た。

虫しぐれの宵だった。月にでも誘われ出たか、大判事その人が、供もつれず、ただ一人で、灯もなき河畔をそぞろ歩いてゆく。――今だっと、草むらの露を刎ねて、彼は這い走った。

もう相手の背は、寸前にある。が、その寸前に、

「誰だっ?」

章房の眼が、生き生きと、彼を振り向いた。

せつなを、逸すべきではない。だのに元成は、後ろへ跳んだ。もう刺客の資格は失っていたのだった。

しかし、元成は、章房の眸のさきに、異様な覆面姿を、砕かれた物ノ怪みたいに、ひれ伏していた。いつか彼の本心では、章房の人物を、尊敬していたのであろう。慚愧して、自白してしまった。

「もしっ……、お気をつけなされませ。御一命は、狙われています。自分は、刺客に不適な者、消え失せますが、世はただならぬ世」

すると、立ち去る彼の後ろで、章房の笑う声がしていた。

「刺客、そう慌てるな。いまの注意、ありがたいが、覚悟の前だ。覚悟なくして、あれほどなこと、みかどのおん前で、いえるものかは」

――転じて。

西華門院の局のうちから、卯木の姿が見えないと騒がれ出したのは、元成にそのことがあってから数日後の、暗い秋雨が吹きすさんで明けた一夜だった。