Classiques japonais avec furigana
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りょくいのおんな
緑衣の女
松本 泰
Lisez 緑衣の女 (りょくいのおんな) de 松本 泰 (まつもとたい) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 12 168 caractères · 25 écrans
A老人は泉原から絹地に描いた極彩色の美人画を買った。泉原はその折の事を思出してA老人を訪ねる気になったのである。老人の住居は、噂に聞いた身分に似合しからぬ川向うのP町で、同じように立並んだ古びた四階建の、とある二階の全体を間借りしていた。泉原は老人に会い、絵を描く事によって生活の保証を得る相談をしたいと思ったのである。が折悪しくA老人は二十日程前から旅行中で、いつ帰って来るとも知れぬという事であった。
泉原は家主の婆さんからその話をきいて、すっかり気を挫かれて了った。稍明るくなりかけていた気持が大きな掌で押えつけられたように、倏忽真暗になって了った。
泉原はデンビ町の下宿へ帰る積りであったが、どうした訳か横丁を曲らずに、幅の広いなだらかな、堤防を歩いていた。両側の街樹は枝葉を伸して鬱蒼と繁っている。目をあげると、潮の満ちた川の上を、白鴎の群が縦横に飛びまわっている。夏の夕暮は永く、空はまだ明るかった。
泉原は人気のない共同椅子に疲労れた体躯を休めて、呆然と過去った日の出来事を思浮べた。斯うした佗しい心持の時に限って思出されるのは、二年前彼を捨てゝ何処へか走ったグヰンという女であった。