Classiques japonais avec furigana
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おに
聴雨・蛍 織田作之助短篇集
織田 作之助
Lisez 聴雨・蛍 織田作之助短篇集 (おに) de 織田 作之助 (おださくのすけ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 19 483 caractères · 41 écrans
花田八段はその対局中しばしば対局場を間違えたということである。天龍寺の玄関を上って左へ折れすぐまた右へ折れたところに対局場にあてられた大書院があったのだが、花田八段は背中を猫背にまるめて自分の足許を見つめながら、ずんずんと廊下の端まで直っすぐに行ってしまい、折れるのを忘れてしまうのである。「花田さん、そっちは本堂ですよ」と世話役の人に注意されると、「はッ」と言いながら、こんどは間違って便所の方へ行ってしまうという放心振りがめずらしくなく、飄々とした脱俗のその風格から、どうしてあの「寄せの花田」の鋭い攻めが出るのかと思われるくらいである。相手の坂田もそれに輪をかけた脱俗振りで、対局中むつかしい局面になると、
「さあ、おもろなって来た。花田はん、ここはむつかしいとこだっせ。あんたも間違えんようしっかり考えなはれや」と相手をいたわるような春風駘蕩の口を利いたりした。
けれども、対局場の隣の部屋で聴いていると、両人の「ハア」「ハア」というはげしい息づかいが、まるで真剣勝負のそれのような凄さを時に伝えて来て、天龍寺の僧侶たちはあっと息をのんだという。それは二人の勝負師が無我の境地のままに血みどろになっている瞬間であった。