Classiques japonais avec furigana
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かつしかみやげ
荷風随筆集(上)
永井 荷風
Lisez 荷風随筆集(上) (かつしかみやげ) de 永井 荷風 (ながいかふう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 133 224 caractères · 269 écrans
その代り、私は忘れられぬほど音色の深い上野の鐘を聴いた事があった。日中はまだ残暑の去りやらぬ初秋の夕暮であった。先生は大方御食事中でもあったのか、私は取次の人に案内されたまま暫くの間唯一人この観潮楼の上に取残された。楼はたしか八畳に六畳の二間かと記憶している。一間の床には何かいわれのあるらしい雷という一字を石摺にした大幅がかけてあって、その下には古い支那の陶器と想像せられる大きな六角の花瓶が、花一輪さしてないために、かえってこの上もなく厳格にまた冷静に見えた。座敷中にはこの床の間の軸と花瓶の外は全く何一つ置いてないのである。額もなければ置物もない。おそるおそる四枚立の襖の明放してある次の間を窺うと、中央に机が一脚置いてあったが、それさえいわば台のようなもので、一枚の板と四本の脚があるばかり、抽出もなければ彫刻のかざりも何もない机で、その上には硯もインキ壺も紙も筆も置いてはない。しかしその後に立てた六枚屏風の裾からは、紐で束ねた西洋の新聞か雑誌のようなものの片端が見えたので、私はそっと首を延して差覗くと、いずれも大部のものと思われる種々なる洋書が座敷の壁際に高く積重ねてあるらしい様子であった。