Classiques japonais avec furigana
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かつしかみやげ
荷風随筆集(上)
永井 荷風
Lisez 荷風随筆集(上) (かつしかみやげ) de 永井 荷風 (ながいかふう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 133 224 caractères · 269 écrans
わたくしはふと大正二、三年のころ、初て木造の白髯橋ができて、橋銭を取っていた時分のことを思返した。隅田川と中川との間にひろがっていた水田隴畝が、次第に埋められて町になり初めたのも、その頃からであろうか。しかし玉の井という町の名は、まだ耳にしなかった。それは大正八、九年のころ、浅草公園の北側をかぎっていた深い溝が埋められ、道路取ひろげの工事と共に、その辺の艶しい家が取払われた時からであろう。当時凌雲閣の近処には依然としてそういう小家がなお数知れず残っていたが、震災の火に焼かれてその跡を絶つに及び、ここに玉の井の名が俄に言囃されるようになった。
女車掌が突然、「次は局前、郵便局前。」というのに驚いて、あたりを見ると、右に灰色した大きな建物、左に『大菩薩峠』の幟を飜す活動小屋が立っていて、煌々と灯をかがやかす両側の商店から、ラヂオと蓄音機の歌が聞える。
商店の中で、シャツ、ヱプロンを吊した雑貨店、煎餅屋、おもちゃ屋、下駄屋。その中でも殊に灯のあかるいせいでもあるか、薬屋の店が幾軒もあるように思われた。
忽ち電車線路の踏切があって、それを越すと、車掌が、「劇場前」