Classiques japonais avec furigana
ja-reading.com
Lisez des classiques japonais en ligne avec furigana. Filtrez par niveau JLPT, touchez un mot pour le sens et traduisez une phrase.
しょうたく
荷風随筆集(下)〔全2冊〕
永井 荷風
Lisez 荷風随筆集(下)〔全2冊〕 (しょうたく) de 永井 荷風 (ながいかふう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 36 633 caractères · 74 écrans
来た。
今日もとうとう雪になったか。と思うと、わけもなく二番目狂言に出て来る人物になったような心持になる。浄瑠璃を聞くような軟い情味が胸一ぱいに湧いて来て、二人とも言合したようにそのまま立留って、見る見る暗くなって行く川の流を眺めた。突然耳元ちかく女の声がしたので、その方を見ると、長命寺の門前にある掛茶屋のおかみさんが軒下の床几に置いた煙草盆などを片づけているのである。土間があって、家の内の座敷にはもうランプがついている。
友達がおかみさんを呼んで、一杯いただきたいが、晩くて迷惑なら壜詰を下さいと言うと、おかみさんは姉様かぶりにした手拭を取りながら、お上んなさいまし。何も御在ませんがと言って、座敷へ座布団を出して敷いてくれた。三十ぢかい小づくりの垢抜のした女であった。
焼海苔に銚子を運んだ後、おかみさんはお寒いじゃ御在ませんかと親し気な調子で、置火燵を持出してくれた。親切で、いや味がなく、機転のきいている、こういう接待ぶりもその頃にはさして珍しいというほどの事でもなかったのであるが、今日これを回想して見ると、市街の光景と共に、かかる人情、かかる風俗も再び見がたく、再び遇いがたきものである。