Classiques japonais avec furigana
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とうじゅうろうのこい
藤十郎の恋・恩讐の彼方に
菊池 寛
Lisez 藤十郎の恋・恩讐の彼方に (とうじゅうろうのこい) de 菊池 寛 (きくちかん) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 37 146 caractères · 74 écrans
彼は、一語一語に、一句一句に巧な、今までの彼の舞台上の凡ての演戯にも、打ち勝った程の仕打を見せながら、しかも人妻をかき口説く、恐怖と不安とを交えながら、小鳥のように竦んでいる女の方へ、詰め寄せるのであった。
「が、この藤十郎も、人妻に恋をしかけるような非道な事は、なすまじいと、明暮燃え熾る心をじっと抑えて来たのじゃが、われらも今年四十五じゃ、人間の定命はもう近い。これ程の恋を――二十年来偲びに偲んだこれ程の想を、この世で一言も打ち明けいで、何時の世誰にか語るべきと、思うに付けても、物狂わしゅうなるまでに、心が擾れ申して、かくの有様じゃ。のう、お梶どの、藤十郎をあわれと思召さば、たった一言情ある言葉を、なあ……」と、藤十郎は狂うばかりに身悶えしながら、女の近くへ身をすり寄せている。ただ恋に狂うている筈の、彼の瞳ばかりは、刃のように澄みきっていた。
余りの激動に堪えかねたのであろう、お梶は、
「わっ」と、泣き俯してしまった。
一〇
恐ろしい魔女が、その魅力の犠牲者を、見詰めるように、藤十郎は泣き俯したお梶を、じっと見詰めていた。彼の唇の辺には、凄じい程の冷たい表情が浮んでいた。