Classiques japonais avec furigana
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とうじゅうろうのこい
藤十郎の恋・恩讐の彼方に
菊池 寛
Lisez 藤十郎の恋・恩讐の彼方に (とうじゅうろうのこい) de 菊池 寛 (きくちかん) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 37 146 caractères · 74 écrans
が、忠次の、怨みっこの無いように、しかも役に立つ乾児を、選ぼうと云う肚が解ると、みんなは異議なく入れ札に賛成した。
喜蔵が矢立を持っていた。忠次が懐から、鼻紙の半紙を取り出した。それを喜蔵が受取ると、長脇差を抜いて、手際よくそれを小さく切り分けた。そうして、一片ずつみんなに配った。
先刻からの経路を、一番厭な心で見ていたのは稲荷の九郎助だった。彼は年輩から云っても、忠次の身内では、第一の兄分でなければならなかった。が、忠次からも、乾児からも、そのようには扱われていなかった。去年、大前田の一家と一寸した出入のあった時、彼は喧嘩場から、不覚にも大前田の身内の者に、引っ担がれた。それ以来、彼は多年培っていた自分の声望がめっきり落ちたのを知った。自分から云えば、遙かに後輩の浅太郎や喜蔵に段々凌がれて来た事を、感じていた。そればかりでなく、十年前までは、兄弟同様に賭場から賭場を、一緒に漂浪して歩いた忠次までが、何時となく、自分を軽んじている事を知った。皆は表面こそ『阿兄! 阿兄!』と立てているものの、心の裡では、自分を重んじていないことが、ありありと感ぜられた。