Classiques japonais avec furigana
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ちのもじ
血の文字
黒岩 涙香
Lisez 血の文字 (ちのもじ) de 黒岩 涙香 (くろいわるいこう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 44 021 caractères · 87 écrans
音に耳を襲われ、驚き覚めて頭をれば其響は球の音にあらで外より余が室の戸を急がわしく打叩くにぞありける、時ならぬ真夜中に人の眠りを妨るは何れの没情漢ぞと打呟きながら、起行きて戸を開くに、突て入る一人は是なん目科其人にして衣服の着様は紊れ、飾り袗の胸板は引裂かれ、帽子は失い襟飾りは曲りたるなど一目に他人と組合い攫み合いたるを知る有様なるに其うえ顔は一面に血塗れなれば余は全く仰天し「や、や、貴方は何う成ッた」と叫び問う、目科は其声高しと叱り鎮めて「いや此傷は、なに太した事でも有ますまいが何分にも痛むので幸い貴方が医学生だから手当を仕て貰おうと思いまして」と答う、余は無言の儘に彼れを据らせ其傷を検むるに成るほど血の出る割には太した怪我にもあらず、爾れど左の頬を耳より口まで引抓れたる者にして処々に肉さえ露出たれば痛みは左こそと察せらる、頓て余が其傷を洗いて夫々の手術を施し終れば目科は厚く礼を述べ「いや是くらいの怪我で逃れたのは未しもです。併し此事は誰にも言わぬ様に願います」との注意を遺して退きたり、是より夜の明るまで余は眠るにも眠られず、様々の想像を浮べ来りて是か彼れかと考え廻すに目科は追剥か盗坊か但しは又強盗か、何しろ極々の悪人には相違なし。