Lecture japonaise

Classiques japonais avec furigana

ja-reading.com

Lisez des classiques japonais en ligne avec furigana. Filtrez par niveau JLPT, touchez un mot pour le sens et traduisez une phrase.

おいついたゆめ

追いついた夢

山本 周五郎

Lisez 追いついた夢 (おいついたゆめ) de 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.

N2 · avancé · kanji et kana modernes · 20 427 caractères · 41 écrans

Aozora Bunko

「かしこまりました、それだけでようございますか」

それだけだと云って、和助はさりげなく店の中を眺めまわした。……十二の年からあしかけ三十二年になる。みじめな、暗い、濁った日々、ふり返ってみれば屈辱と悲哀に塗りつぶされた月日のようだ。しかしそれも今日が終りである、もう二度とこの店を見ることはないだろう。

――これでおさらばだ、二三日うちにひと騒ぎ起るだろう、おれの置き土産だ、ちょっとしたみものだから悠くり見て呉れ。

嘲けるように心のなかで呟いて、それから駕籠を呼ばせて店を出た。

新銭座の家へ帰った和助は、具合が悪いからと云って早く寝た。けれどもこれが最後と思うせいか、頭が冴えてどうにも眠れない、そのうちに十時の鐘が聞え、苛々してきたので起きあがって、妻に酒を云いつけた。

「お酒って、……いいんですか」妻のお幸は針を持ったまま良人を見た、「――お医者に止められてるっていうのに、なにか煎じ薬でも」

「うるさい、持って来ればいいんだ」

お幸はしぶしぶ立っていった。和助はそのうしろ姿を憎悪の眼で見やった。ずんぐりと胴の太い肥えた躰、勘のにぶさ、動作ののろさ、げびた口のききよう、すべてがいやらしく、やりきれないほど醜かった。