Classiques japonais avec furigana
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のざらし
野ざらし
豊島 与志雄
Lisez 野ざらし (のざらし) de 豊島 与志雄 (とよしまよしお) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 19 100 caractères · 39 écrans
その時、殆ど敵意に近い感情が禎輔の顔に漂った。何かどしりとした言葉が落ちかかって来そうなのを、昌作は感じた。
けれど、丁度その時、奥の室から達子が出て来た。
「いらっしゃい。」
下唇の心持ち厚い受口から出る、多少切口上めいた語尾のはっきりした言葉で、彼女は昌作を迎えておいて、其処に坐った。そのために室の中の空気が一変した。禎輔の顔は俄に無関心な表情になった。宛も、覗き出しかけた彼の心が再び奥深く引込んだかのようだった。妻の前に於ける彼のそういう態度の変化が、一寸昌作を驚かした。元来禎輔は、深い問題を論じ合ってる熱心な際にも、妻の達子が其処に出ると俄にくつろいだ態度を取る癖があった。妻をいたわるのか或は妻の手前を繕ろうのか、または、妻を軽蔑してか或は恐れてか、何れともそれは分らないが、兎に角俄に、余裕のある何喰わぬ態度をするのだった。その無意識的な癖を昌作は嫌だとは思わなかった。然しその晩の禎輔の態度は、単なるそういう癖ばかりではないらしかった。何かしら意識的な努力の跡が仄見えた。昌作は一寸心を打たれざるを得なかった。それと共に、今迄禎輔と対座中、自分が殆んど一言も口を利かなかったということが、ふいに頭に浮んだ。