Classiques japonais avec furigana
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のわき
野分
山本 周五郎
Lisez 野分 (のわき) de 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 21 401 caractères · 42 écrans
それは両国橋の広小路を南へさがった米沢町の地はずれにあり、すぐ前に薬研堀の水が見えるし、左どなりは石町のなにがしとやらいう太物問屋の隠居所で、松の多いその庭と接しているため、鄙へでもいったような静かな環境をもっていた。茶屋の構えも小ぢんまりしていた。二階も下も小部屋ばかりだし、けばけばしい飾り付はなし、簡素とおちついた気配りがゆき届いていた。主人の萬吉はもと幕府の配膳方に勤めていたそうで、庖丁ぶりもよそとは違っていたし、女房のお蔦――蔦萬はつまり夫婦の名を取ったものだ――の好みだろう、女中たちもしっとりとした温和しい性質の者ばかりだった。したがって客はたいてい武家か、町人でも静かに酒さかなを楽しむという人たちが多かった。……彼にはそういう静かなおちついた雰囲気だけで充分だった、自慢らしい割烹も酒も二のつぎだった。誰にも煩わされず、独りで勝手に酒を啜り、ぼんやりもの思いに耽ることができれば他に望みはなかった。お紋は彼の受持のようで、給仕にはたいてい彼女が出たけれど、彼にとっては顔を覚えているという程度で、名も知らず、当人に対してもまるで興味などなかった。