Classiques japonais avec furigana
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しっぽうのはしら
鏡花短編集
泉 鏡花
Lisez 鏡花短編集 (しっぽうのはしら) de 泉 鏡花 (いずみきょうか) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 15 632 caractères · 32 écrans
湯の尾峠にかかる山越え、それも覚束ない。ただ道は最も奥で、山は就中深いが、栃木峠から中の河内は越せそうである。それには一週間ばかり以来、郵便物が通ずると言うのを聞くさえ、雁の初だよりで、古の名将、また英雄が、涙に、誉に、屍を埋め、名を残した、あの、山また山、また山の山路を、重る峠を、一羽でとぶか、と袖をしめ、襟を合わせた。山霊に対して、小さな身体は、既に茶店の屋根を覗く、御嶽の顋に呑まれていたのであった。
「気をつけておいでなせえましよ。」……畷は荒れて、洪水に松の並木も倒れた。ただ畔のような街道端まで、福井の車夫は、笠を手にして見送りつつ、われさえ指す方を知らぬ状ながら、式ばかり日にやけた黒い手を挙げて、白雲の前途を指した。
秋のはじめの、空は晴れつつ、熱い雲のみ往来して、田に立つ人の影もない。稲も、畠も、夥多しい洪水のあとである。
道を切って、街道を横に瀬をつくる、流に迷って、根こそぎ倒れた並木の松を、丸木橋とよりは筏に蹈んで、心細さに見返ると、車夫はなお手廂して立っていた。
翼をいためた燕の、ひとり地ずれに辿るのを、あわれがって、去りあえず見送っていたのであろう。