Classiques japonais avec furigana
ja-reading.com
Lisez des classiques japonais en ligne avec furigana. Filtrez par niveau JLPT, touchez un mot pour le sens et traduisez une phrase.
こうでん
香奠
豊島 与志雄
Lisez 香奠 (こうでん) de 豊島 与志雄 (とよしまよしお) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 22 989 caractères · 46 écrans
私はその方へつかつかと寄っていって、帽子に片手をかけました。彼女は立止りました。
「失礼ですが、あなたは板倉さんと仰言る方ではありませんか。」
切れの長い眼の中に、小さな瞳がくるりと動いて、厚ぼったい唇が一寸引緊ったようでした。
「ええ。」と聞えるか聞えないかの低い返辞です。
「平田伍三郎のことで一寸お知らせしたいことがあったものですから……。」
心持ち彼女の顔は赤らんだかと思うと、もう次の瞬間には晴れ晴れとなっていました。そして元気のいい張りのある声が響きました。
「水島先生でいらっしゃいますんでしょう。」
「えっ。」と今度は私が喫驚した低い声で答えました。
それから無言のうちに五六歩歩みだして、私は眼を伏せながら云い出しました。
「実は昨夜、平田君が脚気衝心で突然亡くなったんです。」
「え、やっぱり……脚気衝心で……。」
彼女が立止ったのに驚いて振向くと、彼女は舞台に立った女優のような姿で真直を見つめたまま、涙を一杯含んだ眼をぱちりと瞬きました。それからすたすたと歩き出しました。
「それで私は、あなたにもお知らせしようと思いまして……。」
それから私達は一町ばかり無言で歩きました。