Classiques japonais avec furigana
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おうがいのおもいで
鴎外の思い出
小金井 喜美子
Lisez 鴎外の思い出 (おうがいのおもいで) de 小金井 喜美子 (こがねいきみこ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 127 675 caractères · 254 écrans
ここらは以前は暗いほど樹木が茂って、夜は梟の声が物凄く、草原には雉子が羽ばたいていたところだったのです。「庭木の移植には時期がありますから」と、庭師が来て、石灯籠を崩したり、庭のそこここを掘返したりいたします。それで、「一番最初に庭木がお引越ですね」といいました。掘上げた根を縄で捲いていますところへ、それを積んでゆくトラックの音がして来ます。椿、どうだん、躑躅などの丈の低い木はそれほどにも思いませんが、白梅の古木や楓などは、根が痛まず、障りのないようにと祈られます。楓の紅葉は庭一面を火の燃えるように照して、それを誰もが賞美したのですが、今年は普請場の傍で寂しく紅葉して、寂しく散ることでしょう。幾百年を経た松の古木があって、昔の東海道のようだと誇った土地も、哀れなことになったので、今遠方から少しずつ木を運ぶのです。
引越といっても、私は老体で何も出来ませんから、長男や嫁がいろいろ心配して、住みよくしてくれた狭い部屋で、手廻りの箱や包をぽつぽつ整理しています。他人には何の趣もない紙屑や小切れでも、皆それぞれに思い出があるものですから、それらを手に取上げて見詰めたりします。