Classiques japonais avec furigana
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しかのいんしょう
鹿の印象
木暮 理太郎
Lisez 鹿の印象 (しかのいんしょう) de 木暮 理太郎 (こぐれりたろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 3 489 caractères · 8 écrans
少し霧が薄らぐと成程鹿であることが私にも判然した。しかも十五、六頭の大群である。霧に隠れた奥の方にもまだ五、六頭は居るらしい。牡鹿は三頭であった、其中一頭は群を抜いて大きく、後で蹄の痕を見たら牛のもの程あった。起っているもの、足を伏せているもの、互に体を摺り寄せているもの、舐め合っているもの、歩き廻っているもの等さまざまであったが、この温和な動物は案内者が「ふざけていやがるに」と言った程、嬉戯しているとは思えなかった。西北の可なり強い風は、ざわざわと偃松の海を浪立たせ、風下で小声にとり交わす三人の言葉なぞは、掻き消されて聞える筈もない。鋭敏な嗅覚も風上にいては宝の持ち腐れも同様であろう。偃松の繁みに隠れて、暫くこの平和で長閑なさまを眤と眺めていた私達は、野獣、しかもおとなしい野獣を前にして、恐らく祖先から伝わる残忍性の血潮の衝動からであろう。言い合せたように忽ち荷物を其処に抛げ出すと、大声に喚きながら、鹿に向って突進した。周章狼狽した彼等は、地を蹴って虚空を躍るように、大井川の谷を指して一散に逃げ出し、間もなく霧の中に姿を没してしまった。少し離れた奥にいて逃げ後れた四、五頭の中には、小石の一つ二つを横腹か尻のあたりに見舞われたのもあったように想う。