Classiques japonais avec furigana
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おじさんのはなし
おじさんの話
小山 清
Lisez おじさんの話 (おじさんのはなし) de 小山 清 (こやまきよし) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 21 232 caractères · 42 écrans
私は当座は銭の三百文も落したような気がしたが、日が立つにつれて、なにやら後味の甘さだけが心に残った。処も知らぬ、名も知らぬ、顔も知らない娘さんのことが、ふと私の心頭を掠めることがしばしばであった。凡そ掴みどころのない、頼りない、若しかしたらまるっきり迷妄であるかも知れない話。けれどもそれが淡いとも云えないほどの淡さで私の心に残っていて、一瞬私をして夢見心地にさせるのである。私はいまでもときどき、こんな阿呆なことを思ったりするのだ。親から云い含められて娘さんは思いをひるがえし、他家へ嫁いで子供までなし、いまは幸福な家庭を形づくってもはや昔のことは忘れているが、それでもときたま、子供の襁褓を洗濯しながらふと憶い出したりする、あの配達さん、いまごろどうしているかしら。
食糧事情がひどくなるとともに、おじさんも私もやたらに腹をすかした。二人寄れば食物の話ばかりしていた。二人共に大食いで口の賤しい方だったから。云うまでもなく配給量だけでは足らないので、なんとか手蔓を求めては食物を手に入れて、その不足分を補っていた。あるとき私は何枚かの外食券が手に這入ったので、それを米屋へ持参して米と交換してもらったのだが、その際米屋の人がなにを思い違いしたのか、その外食券の一ヶ月分ほどの分量の米を私に渡してよこした。