Classiques japonais avec furigana
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おせん
おせん
邦枝 完二
Lisez おせん de 邦枝 完二 (くにえだかんじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 74 074 caractères · 148 écrans
お前の足ッ、まるッきり、地べたを踏んじァいねえの」
こおろぎの音も細々と明け暮れて、風に乱れる芒叢に、三つ四つ五つ、子雀の飛び交うさまも、いとど憐れの秋ながら、ここ谷中の草道ばかりは、枯野も落葉も影さえなく、四季を分たず咲き競うた、芙蓉の花が清々しくも色を染めて、西の空に澄み渡った富岳の雪に映えていた。
名にし負う花の笠森感応寺。渋茶の味はどうであろうと、おせんが愛想の靨を拝んで、桜貝をちりばめたような白魚の手から、お茶一服を差し出されれば、ぞっと色気が身にしみて、帰りの茶代は倍になろうという。女ならでは夜のあけぬ、その大江戸の隅々まで、子供が唄う毬唄といえば、近頃「おせんの茶屋」にきまっていた。
夜が白々と明けそめて、上野の森の恋の鴉が、まだ漸く夢から覚めたか覚めない時分、早くも感応寺中門前町は、参詣の名に隠れての、恋知り男の雪駄の音で賑わいそめるが、十一軒の水茶屋の、いずれの見世に休むにしても、当の金的はかぎ屋のおせんただ一人。ゆうべ吉原で振り抜かれた捨鉢なのが、帰りの駄賃に、朱羅宇の煙管を背筋に忍ばせて、可愛いおせんにやろうなんぞと、飛んだ親切なお笑い草も、数ある客の中にも珍しくなかった。