Classiques japonais avec furigana
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おせん
おせん
邦枝 完二
Lisez おせん de 邦枝 完二 (くにえだかんじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 74 074 caractères · 148 écrans
手の内の宝を奪われでもしたように、藤吉は地駄ン駄踏んで、あとから、土橋をひと飛びに飛んで行った。
鉤なりに曲った縁先では、師匠の春信とおせんとが、既に挨拶を済ませて、池の鯉に眼をやりながら、何事かを、声をひそめて話し合っていた。
「八つぁん、ちょいと来てくんな」
「何んだ藤さん」
立って来た八五郎を、睨めるようにして、藤吉は口を尖らせた。
「お前、あとから誰が来るか、知ってるかい」
「知らねえ」
「それ見な。知らねえで、よくそんなお接介が出来たもんだの」
「お接介たァ何んのこッた」
「おせんちゃんを、先に立って連れてくなんざ、お接介だよ」
「冗談じゃねえ。おせんちゃんは、師匠に頼まれて、おいらが呼びに行ったんだぜ。――おめえはまだ、顔を洗わねえんだの」
顔はとうに洗っていたが、藤吉の眼頭には、目脂が小汚なくこすり付いていた。
六
赤とんぼが障子へくっきり影を映した画室は、金の砂子を散らしたように明るかった。
広々と庭を取ってはあるが、僅かに三間を数えるばかりの、茶室がかった風流の住居は、ただ如何にも春信らしい好みにまかせて、手いれが行き届いているというだけのこと、諸大名の御用絵師などにくらべたら、まことに粗末なものであった。