Classiques japonais avec furigana
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おせん
おせん
邦枝 完二
Lisez おせん de 邦枝 完二 (くにえだかんじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 74 074 caractères · 148 écrans
乗りそこねるかと人々を惜しがらせて来た腑甲斐なさ、しかも胸に秘めた菊之丞への切なる思いを、知る人とては一人もなかった。
名人由斎に、心の内を打ちあけて、三年前に中村座を見た、八百屋お七の舞台姿をそのままの、生人形に頼み込んだ半年前から、おせんはきょうか明日かと、出来上る日を、どんなに待ったか知れなかったが、心魂を傾けつくす仕事だから、たとえなにがあっても、その日までは見に来ちゃァならねえ、行きますまいと誓った言葉の手前もあり、辛抱に辛抱を重ねて来たとどのつまりが、そこは女の乱れる思いの堪え難く、きのうときょうの二度も続けて、この仕事場を、ひそかに訪れる気になったのであろう。頭巾の中に瞠った眼には、涙の露が宿っていた。
「親方。――もし親方」
もう一度おせんは奥へ向って、由斎を呼んで見た。が、聞えるものは、わずかに樋を伝わって落ちる、雨垂れの音ばかりであった。
軒端の柳が、思い出したように、かるく雨戸を撫でて行った。
四
「若旦那。――もし、若旦那」
「うるさいね。ちと黙ってお歩きよ」
「そう仰しゃいますが、これを黙って居りましたら、あとで若旦那に、どんなお小言を頂戴するか知れませんや」