Classiques japonais avec furigana
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おせん
おせん
邦枝 完二
Lisez おせん de 邦枝 完二 (くにえだかんじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 74 074 caractères · 148 écrans
「帯。新七。――そこの箪笥をあけて見や」
あわてて箪笥の抽斗へ手をかけた新七は、松江のいいつけ通り、片ッ端から抽斗を開け始めた。
「着物も羽織も、みなそこへ出して見や」
「こうでござりますか」
「もっと」
「これも」
「ええもういちいち聞くことかいな。一度にあけてしまいなはれ」
ぎっしり、抽斗一杯に詰った衣装を、一枚残らず畳の上へぶちまけたその中を、松江は夢中で引ッかき廻していたが、やがて眼を据えながら新七に命じた。
「おまえ、直ぐに白壁町へ、おこのの後を追うて、帯を取って戻るのじゃ」
「何んの帯でござります」
「阿呆め、おせんの帯じゃ。あれがのうては、肝腎の芝居がわやになってしまうがな」
剃りたての松江の眉は、青く動いた。
二
その時分、当のおこのは、駕籠を急がせて、月のない柳原の土手を、ひた走りに走らせていた。
欝金の風呂敷に包んで、膝の上に確と抱えたのは、亭主の松江が今度森田屋のおせんの狂言を上演するについて、春信の家へ日参して借りて来た、いわくつきのおせんの帯であるのはいうまでもなかった。
鉄漿も黒々と、今朝染めたばかりのおこのの歯は、堅く右の袂を噛んでいた。