Classiques japonais avec furigana
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おせん
おせん
邦枝 完二
Lisez おせん de 邦枝 完二 (くにえだかんじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 74 074 caractères · 148 écrans
「どんな御用か、遠慮なく、ずっとお通りなさるがいい」
「いいえもう、ここで結構でおます」
行燈の灯が長く影をひいた、その鼠色に包まれたまま、石のように硬くなったおこのの髪が二筋三筋、夜風に怪しくふるえて、心もち青みを帯びた頬のあたりに、ほのかに汗がにじんでいた。
「そうしてお上さんは、こんな遅く、何んの用でおいでなすった」
「拝借の、おせん様の帯を、お返し申しに。――」
「なに、おせんの帯を。――」
「はい」
「それはまた何んでの」
春信は、意外なおこのの言葉は、思わず眼を瞠った。
「御大切なお品ゆえ、粗相があってはならんよって、速うお返し申すが上分別と、思い立って参じました」
「では太夫はこの帯を、芝居にゃ使わないつもりかの」
「はい。折角ながら。……」
おこのは、そのまま固く唇を噛んだ。
四
「ふふふふ、お上さん」
じっとおこのの顔を見詰めていた春信は、苦笑に唇を歪めた。
「はい」
「お前さんもう一度、思い直して見なさる気はないのかい」
「おもい直せといやはりますか」
「まずのう」
「なぜでおます」
「なぜかそいつは、そっちの胸に、訊いて見たらば判ンなさろう。――その帯は、おせんから頼まれて、この春信が描いたものにゃ違いないが、まだ向うの手へ渡さないうちに、太夫が来て、貸してくれとのたッての頼み、これがなくては、肝腎の芝居が