Classiques japonais avec furigana
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おせん
おせん
邦枝 完二
Lisez おせん de 邦枝 完二 (くにえだかんじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 74 074 caractères · 148 écrans
靨を見せないのはまだしも、まるで別人のようにせかせかと、先を急いでの素気ない素振に、一同も流石におせんの前へ、大手をひろげる勇気もないらしく、ただ口だけを達者に動かして、少しでも余計に引止めようと、あせるばかりであった。
「もし、そこを退いておくんなさいな」
「どいたらおめえが帰ッちまうだろう。まァいいから、ここで遊んで行きねえ」
「あたしゃ、先を急ぎます。きょうは堪忍しておくんなさいよ」
「先ッたって、これから先ァ、家へ帰るより道はあるめえ。それともどこぞへ、好きな人でも出来たのかい」
「なんでそんなことが。……」
「ねえンなら、よかろうじゃねえか」
「でもお母さんが。――」
「お袋の顔なんざ、生れた時から見てるんだろう。もう大概、見あきてもよさそうなもんだぜ」
「そうだ、おせんちゃん。帰る時にゃ、みんなで送ってッてやろうから、きょう一ン日の見世の話でも、聞かしてくんねえよ」
「お見世のことなんぞ、何んにも話はござんせぬ。――どうか通しておくんなさい」
「紙屋の若旦那の話でも、名主さんのじゃんこ息子の話でも、いくらもあろうというもんじゃねえか」
「知りませんよ。お母さんが風邪を引いて、独りで寝ててござんすから、ちっとも速く帰らないと、あたしゃ心配でなりませんのさ」