Classiques japonais avec furigana
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『てっぽうさへいじ』ついでにもひとつ
たそがれの人間 佐藤春夫怪異小品集【底本画像有】
佐藤 春夫
Lisez たそがれの人間 佐藤春夫怪異小品集【底本画像有】 (『てっぽうさへいじ』ついでにもひとつ) de 佐藤 春夫 (さとうはるお) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 23 182 caractères · 48 écrans
だが、ここまで出て来たのだから、鬼でも蛇でも出て来いとばかり、戸をからり開けると、軒下に立って空模様を見上げるように立っていた男は不意をくらったように振り向きざま、帽子を脱いで下駄箱の上に置いたが、こちらに向き直るとほとんど同時に上り框の前に手をついてわたくしの足もとにうずくまり、頭を低く垂れているのは、いかにも恐縮した様子でもあるが、顔を見せたくないのかと思えないでもない。しかし挨拶は、
「これはご当家のご主人さまで、わざわざ見ず知らずの者のために……」
と鄭重を極めている。さてふところから大形の紙入れをもそくさと取り出すと、なかから普通よりは大き目な名刺を取り出して、わたくしの足もとへ置いた。(名刺があるのに、なぜこの名刺を先に、女中に渡さなかったものだか、わたくしにはわからなかった)名はもう忘れているが、北区西ヶ原あたりの住人で糧秣商とあった。云うべき事もなくただ黙って突っ立っているわたくしに向って彼は、
「ご主人、突然に参りまして、つかぬことを伺いますが、ご当家さまは何か新潟県にご関係がおありでございましょうか」
と切り出したものであった。全く藪から棒の質問である。