Classiques japonais avec furigana
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つゆのあとさき
つゆのあとさき
永井 荷風
Lisez つゆのあとさき de 永井 荷風 (ながいかふう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 74 725 caractères · 148 écrans
」
「なるほど……。」
「まだ考えている事がある……。」
「先生。もう止してください。何だか変な心持になるから、もう止してください。」
「暴風になりそうだな。今夜は。」
空は真暗に曇って、今にも雨が降って来そうに思われながら、烈風に吹きちぎられた乱雲の間から星影が見えてはまた隠れてしまう。路傍の新樹は風にもまれ、軟なその若葉は吹き裂れて路の面に散乱している。唯さえ夜になれば人通りの絶がちな丸の内の道路は、この風とこの闇とに一際物寂しく、屹立する建物の間の小路から突然追剥でも出て来はせぬかと思われるような気がする。
「帝劇の女優が楽屋から帰り道に、車から引ずりおろされて脚を斬られたことがあった。犯人はわからずじまいだ。」
「そうですか。そんな事があったんですか。」
「寝ている中に黴菌をなすりつけられて盲目になった芸者もある。君江のような女は最後にはきっとそういう目に遇うだろう……。」
突然進がアッと叫んだので、村岡はびっくりして寄添うと、横合から吹つける風に、進は高価なパナマ帽子を奪い去られたのであった。
知らず知らず日々新聞社の近くまで歩いて来たので、二人はやや疲れたままその辺の小さなカッフェーに小憩みして、進はウイスキー村岡はビール一杯を傾け、足の向くまま銀座通へ出た。