Classiques japonais avec furigana
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つゆのあとさき
つゆのあとさき
永井 荷風
Lisez つゆのあとさき de 永井 荷風 (ながいかふう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 74 725 caractères · 148 écrans
黒子のある場所が他とはちがって親兄弟でも知ろうはずがない。風呂屋の番頭とてそこまでは気がつくまい。黒子の有無は別にどうでもよい事であるが、風呂屋の番頭さえ気のつかない事を、どうして新聞記者が知っていたのだろう。君江はこの不審と、去年からの疑惑とを思合せて、これから先どんな事が起るかも知れないと、急に空おそろしくなって、今まで神信心は勿論、お御籤一本引いたことのない身ながら、突然占いを見てもらう気になったのである。
アパートメントの一室を店にしている新時代の売卜者は年の頃四十前後、口髭を刈り洋服を着、鼈甲のロイド眼鏡をかけ、デスクに凭れて客に応対する様子は見たところ医者か弁護士と変りはない。省線電車の往復するのが能く見える硝子窓の上には「天佑平八郎書」とした額を掲げ、壁には日本と世界の地図とを貼り、机の傍の本箱には棚を殊にして洋書と帙入の和本とが並べてある。
君江は薄地の肩掛を取って手に持ったまま、指示された椅子に腰をかけると、洋装の売卜者はデスクの上によみかけの書物を閉じ廻転椅子のままぐるりとこちらへ向直って、
「御縁談ですか。それとも大体にお身の上の吉凶を見ましょうか。