Classiques japonais avec furigana
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ゆだんたいてき
ゆだん大敵
山本 周五郎
Lisez ゆだん大敵 (ゆだんたいてき) de 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 20 664 caractères · 41 écrans
忠辰にだけ聞えるほどの声で、ゆっくりとそう云い続けた。
誰かが知らせたのだろう、そこへお守り役の老臣で稲垣浅之助という老人が走せつけて来た。忠辰はすばやくはね起きた、久之助もやおら立上りながら、いきなり大きな声で、
「まいった、まいった」と叫んだ。
するとかれの鼻からたくたくと衂血が流れだした。
「なにを御乱暴あそばすか」
駆けつけて来た老臣がそう叱りかけると、久之助は両手で鼻を押えながら云った。
「相撲のお相手をしていたのです、乱暴をなすったのではありません、相撲を取ってわたくしが負けたのです」
忠辰は赧くなった顔を俯向けて黙っていたが、老臣が去ると少年たちに、
「おまえたちは向うへゆけ」
と云って遠ざけ、懐紙を出して久之助の衂血を拭いてやった。
久之助の眼からぽろぽろと泪がこぼれ落ちた。忠辰の頬にも泪の条ができた、どちらも黙っていたが、心の糸とでもいいたいようなものがそのとき堅く結びついたのを、どちらもずっと後まで忘れることができなかった。
郷田権之助はわが子が特に寵愛されるということを好まなかった、かれはしばしば久之助に云った。
「ぬきんでてお気にいるということは正しい奉公ではない、そういう者はとかく同輩のそねみの因ともなり、寵をおのれに取ろうとしてあらぬ競争心を誘いやすい。