Classiques japonais avec furigana
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アンドロギュノスのちすじ
アンドロギュノスの裔
渡辺 温
Lisez アンドロギュノスの裔 (アンドロギュノスのちすじ) de 渡辺 温 (わたなべおん) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 129 168 caractères · 267 écrans
話の筋は極くたわいもないのだが、それでもよく考えてみると、何だかこうひどく妙な気がするんでね。尤も僕だから妙な気もするのかも知れない。だから君たちにはつまらないかも知れない。が、まあ話してみよう……
……お正月の松がとれてから未だ幾日も過ぎない頃であった。夕ぐれ近い空は雪空で、低く垂れ下がったまま白っちゃけて凍りついていた。井深君は銀座を散歩していたのである。北風が唸りながら舖道の紙屑やごみを浚って吹いた。遉の銀座通りではあったが、行き交う人々はみんな身を竦めながら忙しそうにして歩いていた。井深君の如き純粋な散歩者は他には殆ど見当らなかったと云ってもいいに違いない。井深君はそれこそもう散歩の中毒みたいになっていて、毎日々々たといどんなに空あんばいがすぐれなくても、どんなにひどい木枯が吹きまくろうとも、この日課だけは決して忽せにしなかった。そしてその散歩に、人一倍おしゃれな井深君は何時もきまって中山帽をかぶり立派な黒服を着て出かけるのだった。――断っておくが、井深君の齢は、そんな身形をしても、未だ三十二歳には少し間があって、しかもその実際よりも更に三つ四つ若く、つまり弱冠そこそこにしか見えないような童顔をしていた。