Classiques japonais avec furigana
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アンドロギュノスのちすじ
アンドロギュノスの裔
渡辺 温
Lisez アンドロギュノスの裔 (アンドロギュノスのちすじ) de 渡辺 温 (わたなべおん) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 129 168 caractères · 267 écrans
彼女は、毎晩、そうして男を待っているのである。待つが程なく男はやって来る。男は黒いマントを長く着て、黒い大きな眼鏡をかけ、そして黒い見事な髭をはやしていた。私は軍人の父が形見に残していった望遠鏡で男と女との媾曳を覗いた。その事は私に、今迄ついぞ経験したこともない、不思議なる悦びを感じさせた。私は毎晩々々のぞいた。その紅い上衣の女は、しばしば街の飾窓や雑誌などの写真で見覚えの或る名高い女優らしかった。男は、私が覗く度毎にドキンとさせられる程、いつか姉が私の顔へ眼鏡と髭とを悪戯書したその時の私の人相と、まるでそっくりなのである。
私はそこで顔ばかりでなく、心迄がその男と共通のものを持っていたと見えて、その恋人である女優へ、まことにやみがたい恋慕の情を抱きはじめるに至ったのである。
私は姉の眼をぬすんで、ひそかに黒い眼鏡と、黒いつけ髭とを買いととのえた。
そして或る晩私は遂に、その男よりたった一足先廻りをして彼女と会った。
私は毎晩、その男のすべての動作をよく研究して会得していた。私は口笛を軽く吹きながらステッキを振って、ゆっくりと大胆に近づいて行った。