Lecture japonaise

Classiques japonais avec furigana

ja-reading.com

Lisez des classiques japonais en ligne avec furigana. Filtrez par niveau JLPT, touchez un mot pour le sens et traduisez une phrase.

キャラコさん

キャラコさん

久生 十蘭

Lisez キャラコさん de 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.

N2 · avancé · kanji et kana modernes · 14 444 caractères · 30 écrans

Aozora Bunko

克服してやろうと思って、せい一杯に息を吸いこむ。ところが、なかなか深呼吸ぐらいでは追いつかない。

(あたしは、いま、落ち着こうとしてるんだわ)

そう思った瞬間、自分の沈着にたいする日ごろの自信がドッとばかりに崩れ落ちて、まるで復讐でもするように、胸のドキドキが一層ひどくなる。

ベートーヴェンの運命交響楽、『忍びよる運命の跫音』といった工合に、鼓動のチンパニが重苦しいリズムに乗って、急調から急速調に、弱音から最強音へと発展する。

心臓ばかりではない。ドキンドキンはいたるところにある。こめかみにも、手頸にも、足の爪先にもある。身体じゅうのいたるところで、調子をそろえてドキンドキンとやる。

なんであろうと、いよいよ決心しなければならない時が来た。キャラコさんは、額に皺をよせ、ギュッと唇を噛んで書机を睨みつける。

書机は、わずか五六歩ばかり離れたところにある。青羅紗の上で、小さな紙きれが風に吹かれてヒラヒラしている。それが、さあ、やっておいで、わけはないじゃないか、と誘いかけているように思われる。そこまで歩いて行って、抽斗の中の手紙を盗みだすぐらいのことは、いかにも一挙手一投足のわざである。