Classiques japonais avec furigana
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キャラコさん
キャラコさん
久生 十蘭
Lisez キャラコさん de 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 9 452 caractères · 19 écrans
これが、あの絵があなたをうっとりさせるゆえんなのよ。……どう? おわかりになった?」
キャラコさんは、横を向いて、またきこえないふりをした。
なんだか、ぼんやりとわかりかけてきた。もっとも、キャラコさん自身も、心のどこかで薄々感づいていたのである。
ただ、油絵の中の青年が好きになったなどというのはあまりにも奇抜すぎるので、キャラコさんの心が、それを承認することを拒みつづけていたのである。
しかし、それも、よく考えてみると、かくべつ、不思議だというようなことでもない。じぶんは、この青年に、いつかいちど逢ったことがあって、その時、強い印象を受けたまま忘れていたが、偶然、飾窓の絵の中でその青年に再会して、古い記憶が急に甦ったのだと考えられないこともない。
そういえば、これとよく似た配景を、いつか一度見たような記憶がある。雁来紅の紅さも、夕陽の色も、おどんだような部屋の暗さも、このままのようすで、心のどこかに残っている。また飾棚の上の琥珀貝の帆前船にも、確かに触れた覚えがある。薄い、冷りとして貝細工の感触が今でも指先にあるような気がする。
最初、あの絵を見たとき、その中へスルスルと入ってゆけそうに思ったのは、絵の表現によることではなくて、それが、むかし、非常に親しかった風景だったからかも知れない。