Classiques japonais avec furigana
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キャラコさん
キャラコさん
久生 十蘭
Lisez キャラコさん de 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 28 043 caractères · 56 écrans
「マキちゃんが、潮吹岩までボートで行って見せるってがんばるんだ。いくらとめても、どうしてもきかないで、とうとうひとりで行っちゃったんだって」
キャラコさんは、のび上って沖のほうを見たが、ボートらしいものも見えない。
「ボートなんか、どこにも、見えないわ」
「馬鹿ァ、ボートがでんぐりかえって、溺れかけてるんだア」
午すぎに、ちょっとさしかけた薄陽は、また雨雲にとざされ、墨色の荒天の下に、冬の海が白い浪の穂を散らして逆巻いている。見上げるような高い波が、折り重なって岸へ押しよせては、大砲のような音をたてて崩れ落ちる。
五町ほど沖合に、芥子の花のような薄赤い色が浮き沈みしている。波にゆりあげられてチラと見えたと思うと、すぐ次の波のしたに沈んでしまうのだった。
もう、何も見る気がしなかった。あの美しい槇子が自分のすぐ眼の前で死んでゆく。
「マキちゃん、……ああ、どうしよう、マキちゃん」
自分でも、何をいっているのかわからなかった。
キャラコさんは、槇子の意地悪も我儘もみな忘れてしまった。
「どうか、助かってちょうだい」
この瞬間、キャラコさんは、父よりも、母よりも、兄弟よりも、槇子の方が好きだったような気がした。