Classiques japonais avec furigana
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いっぽんのはな
一本の花
宮本 百合子
Lisez 一本の花 (いっぽんのはな) de 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 26 709 caractères · 55 écrans
朝子は、電話口へ、
「嘉造さんに一寸どうぞ」
と印刷所の若主人を呼び出した。彼女のふっくりした、勝気らしい張りのある声が、簾越しに秋風の通る殺風景な室に響いた。
「もしもし、十一時半の約束だのにまだ一台も来ないんですが、どうしたんでしょう、え? ああそう。でももう二十三日ですよ。三十分ばかりしたらそちらへ行きますから、じゃ直ぐ出るようにしといて下さい、どうぞ」
二
鶴巻町で電車を降り、魚屋の角を曲ると、磯田印刷所へは半町ばかりであった。魚屋の看板に色の剥げた大鯛が一匹と、同じように古ぼけた笹が添えて描かれている。そのように貧しげなごたごたした家並にそこばかり大きい硝子戸を挾まれて、磯田印刷所がある。震災で、神田からここへ移って来たのだった。
「どうも只今は失礼いたしました。もう二台ばかりあがりましたから……どうぞ」
金庫を背にした正面の机の前から、嘉造が、入って来る朝子に挨拶した。朝子と同じ年であったが、商売にかけると、二十七とは思えない腕があった。
「おい、工場へ行っといで」
「――二階――よござんすか」
濃い髪が一文字に生えた額際に特徴ある頭を嘉造は、