Classiques japonais avec furigana
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やつがたけのまじん
八ヶ嶽の魔神
国枝 史郎
Lisez 八ヶ嶽の魔神 (やつがたけのまじん) de 国枝 史郎 (くにえだしろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 160 664 caractères · 323 écrans
もしもこの時葉之助が、バッタリ地の上に倒れるか、ないしは胡座して大息を吐いたら、そのまま気絶したに相違ない。彼は十分働き過ぎていた。気息も筋肉も疲労れ切っていた。一点の弛みは全身の弛みで、一時に疲労が迸り出て、そのまま斃れてしまったろう。
今日流行っている静座法なども、その濫觴は「阿珂術」なので、伊藤一刀斎景久は、そういう意味からも偉大だと云える。
気力全身に満ちた時、彼は刀を持ちかえようとした。さすがに腕にはシコリが来て、指を開くことが出来なかった。で、左手で右手の指を、一本一本解いて行った。と、切っ先から柄頭まで、ベッタリ血汐で濡れていた。
「息の音を止めたは八人でもあろうか。傷を負わせたは二十人はあろう」
彼は刃こぼれを見ようとした。グイと切っ先を眼前へ引き寄せ、一寸一寸送り込み、じいいっと刃並みを覗いて見た。空には星も月もなく、中庭を囲繞した建物からは、灯火一筋洩れていない。で、四方は真の闇であった。それにも関らず白々と、刀気が心眼に窺われた。
「うむ、有難い、刃こぼれはない」
これは刃こぼれはない筈であった。それほど人は切っていたが、チャリンと刀を合わせたのは、二、三合しかないからであった。