Classiques japonais avec furigana
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ちよこ
千世子
宮本 百合子
Lisez 千世子 (ちよこ) de 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) en japonais avec furigana. JLPT N3. Touchez un mot pour le sens.
N3 · intermédiaire · kanji et kana modernes · 83 104 caractères · 164 écrans
千世子は遠く青くひろがって居る海の面にすいよせられる様にその方ばかりを見て居た。
「ほんとうにネエ、御可哀そうな、少し御やつれなさいましたネエ」
と主婦が云って自分の顔を見て居るのを千世子は知って居てもそっちを向こうとはしなかった。
先に来た時と同じ二階に座った千世子は気が遠くなるほど青い空と青い海の境が紫にかすんで居る事や、くだけるまっ白な波の様子、遠くひびいて来る船歌の声なんかがうれしかった。
らんかんによっかかって千世子はいつまでもいつまでもその景色を見とれて居た。
「着物をきかえて浜へ行くんだ、早くおし」
父親はこんな事を云って千世子の羽織を後からぬがせた。紫矢絣の着物に赤味がかかった錦の帯を小さな横矢の字にして赤い緒の草履をはいて千世子は深い砂を一足ぬきにして歩いた。
若がえった様に父親は小石をひろってなげたり、小さい弟と一緒に波頭とおにごっこをしたりして居た。それをよそ事の様にして千世子は大きな自然の前にうなだれて居た。病み上りのふだんにもましてセンチメンタルになって居る千世子の心の底にドドーッドッドッという波音は厳とした威厳をもってしみ込んで行った。