Classiques japonais avec furigana
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なんきょくき
南極記
久生 十蘭
Lisez 南極記 (なんきょくき) de 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 17 753 caractères · 35 écrans
のところで、もちろん新大陸発見のことではなかった。
指南丸の日本人がウエリントン港で架空の宣言をしてから、十五年の歳月が流れた。アンドレー教授の軽気球はまだアメリカに着かないが、何年待っても、もういかなる土地にも着陸しないだろう。クック博士のほうは、ギッブスというデイリー・クロニクルの記者が食いさがって徹底的に糾弾をつづけ、その後、公式調査によって、まったくの虚報だったことが明白にされた。日本の南極探検のほうは、政府の主権要求もなく、占領決議のあった事実も聞かず、完全に無視され、忘れられてしまってから久しくなっていたので、南緯八十度〇五分の国旗の待伏せはいかにも唐突で、実相のあまりの意外さに、しばらくは思考の作用も営みかねるといった有様だった。
なんの奇もない白地の布に、太陽を表徴する未開の赤丸を捺した単純無比な標識は、強悍人種の陽気さを示そうとするかのように快活に身を躍らせ、遠い時の流れの彼方から、忘れかけていた言葉で話しかけてくる。「ここまでは来ましたが、大した成功だとは思って居りませんですよ」
バード大佐の網膜に、氷の谷間をめぐり、氷瀑を横切り、零下五十度の寒気の中を、蟻の執拗さと頑冥さで、倦むことなく前進してくる人と犬橇の一隊がうつる。