Classiques japonais avec furigana
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こちや
古千屋
Lisez 古千屋 (こちや) de Akutagawa Ryūnosuke (芥川 竜之介) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 2 883 caractères · 6 écrans
家康は花鳥の襖越しに正純の言葉を聞いた後、もちろん二度と直之の首を実検しようとは言わなかった。
二
すると同じ三十日の夜、井伊掃部頭直孝の陣屋に召し使いになっていた女が一人俄に気の狂ったように叫び出した。彼女はやっと三十を越した、古千屋という名の女だった。
「塙団右衛門ほどの侍の首も大御所の実検には具えおらぬか? 某も一手の大将だったものを。こういう辱しめを受けた上は必ず祟りをせずにはおかぬぞ。……」
古千屋はつづけさまに叫びながら、その度に空中へ踊り上ろうとした。それはまた左右の男女たちの力もほとんど抑えることの出来ないものだった。凄じい古千屋の叫び声はもちろん、彼等の彼女を引据えようとする騒ぎも一かたならないのに違いなかった。
井伊の陣屋の騒がしいことはおのずから徳川家康の耳にもはいらない訣には行かなかった。のみならず直孝は家康に謁し、古千屋に直之の悪霊の乗り移ったために誰も皆恐れていることを話した。
「直之の怨むのも不思議はない。では早速実検しよう。」
家康は大蝋燭の光の中にこうきっぱり言葉を下した。
夜ふけの二条の城の居間に直之の首を実検するのは昼間よりも反ってものものしかった。