Classiques japonais avec furigana
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なつのはな
夏の花・心願の国
原 民喜
Lisez 夏の花・心願の国 (なつのはな) de 原 民喜 (はらたみき) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 152 816 caractères · 310 écrans
あの時……彼の頭上に真暗なものが崩れ落ちるとその時から、彼には空間が殆ど絶え間なく波のように揺れ迫った。その時から、彼は地上の巣を喪い、空間はひっきりなしに揺れ返ったのだ。……火焔のなかを突切って、河原まで逃げて来ると、そこには異形の裸体の重傷者がずらりと並んでいる。彼はそのなかから変りはてた少女を見つける。それは兄の家の女中なのだ。彼はその時から、苦しがる少女に附添って面倒をみる。ふくふくに腫れ上った四肢を支えてやると、少女の躯とも思えぬほど無気味だが、水を欲しがる唇は嬰児のように哀れだ。やがて、二晩の野宿の挙句、彼は傷いた兄の家族と一緒に寒村の農家に避難する。だが、この少女だけは家に収容しきれず村の収容所に移される。ある日、彼はその女中のために蒲団を持って収容所を訪れる。板の間の筵の上にごろごろしている重傷者のなかに黒く腫れ上った少女の顔がある。その眼が、彼の姿を認めると、眼だけが少女らしくパッと甦る。
「連れて帰って下さい、連れて帰って、みんなのところへ」
その眼は、眼だけで彼にとり縋ろうとしていた。
「それはそうしてあげたいのだが……」
彼はかすかに泣くように呟くと、持って来た蒲団をおくと、まるで逃げるようにして立去る。