Classiques japonais avec furigana
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よるのくつ
夜の靴
横光 利一
Lisez 夜の靴 (よるのくつ) de 横光 利一 (よこみつりいち) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 107 056 caractères · 213 écrans
前には財産も一番だったが、今はその反対だのう。みなあれが飲んだのだ。はははは。」久左衛門はそう云ってから私に声をひそめて、「あんたに一言いうて置かねばならぬことがあるが、一つだけ気をつけておくれんか。あの参右衛門は人の良い男だが、飲んだら駄目だから、そのときはそっと座を脱して隠れて下され。あれはひどい酒乱でのう。おれは殴られた殴られた。もういくら殴られたかしれん。おれはじっと我慢をし通して来たが、あの大男の力持ちに殴られちゃ、敵うもんじゃない。恐しい力持ちじゃ。」
参右衛門は四十八だ。巨漢である。いつも炉端に寝そべっていて働かないが、無精鬚がのびて来ると、堂堂たる総大将の風貌であたりを不平そうに眺めている。剃刀をあてると、青い剃りあとに酒乱の痕跡の泛び出た美男になる。農夫とは思われぬ伊達な顎や口元が、若若しい精気に満ち、およそ田畑とは縁遠い、ぬらりとした気詰りで、半被を肩に朝湯にでも行きそうだ。
「おれは金はない。金はないが、あんなものは入らん。食えれば良いでのう。こうしておっても食ってゆかれる。どうじゃ、あんたはそう思わんか。」
と、参右衛門は云ったことがある。