Classiques japonais avec furigana
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こをうばう
子を奪う
豊島 与志雄
Lisez 子を奪う (こをうばう) de 豊島 与志雄 (とよしまよしお) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 39 292 caractères · 80 écrans
彼は苛ら苛らして来た。少し露骨すぎる嫌な言葉だと意識しながら、ぶしつけに云ってやった。
「僕達二人のことは、もう何とも思ってはいないんですか。」
敏子は黙って彼の顔を見た。彼はその眼の中を覗き込んだ。然し何の意味をも読み取れなかった。彼は眼を外らして、庭の方を眺めながら、大きく溜息をついた。
「僕は依子を心から愛してやろう。」と彼は独語のように云った――そしてそれは実際独語だった。
すると俄に、此度は彼女の方から追っかけてくるのを、彼は感じた。冷かな清徹さに満ちながら曇ってる彼女の眼の光りは、急に、中に濁りを含んだ清らかさになった。彼はそういう眼の光りをよく知っていた。あの当時、彼女の清く澄んだ眼の中に現われてくる、その熱っぽい濁りを、彼は幾度も見て慴えたのであった。……彼は不安な気持ちになった。無理にしめくくられたような皺のある厚い唇、太く逞しい頸筋から上膊、厚ぼったい胴、皮膚がたるんでるような肌目の荒い肉体、それらが誘惑しかけてくるのを感じた。彼は我知らず身体を少し乗り出そうとした。するとその瞬間に彼女の眼はまた冷かに澄んだ曇りに返った。その曇りの底には、もはや何物も見て取れなかった。