Classiques japonais avec furigana
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こをうばう
子を奪う
豊島 与志雄
Lisez 子を奪う (こをうばう) de 豊島 与志雄 (とよしまよしお) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 39 292 caractères · 80 écrans
彼は眼瞼を閉じた。
眼瞼のうちに、種々なものがまざまざと見えてきた。兼子のこと、依子のこと、幾代のこと、敏子のこと、また自分自身のこと――彼も亦今見た兼子の顔と同じように、窶れた淋しい顔をしてるに違いなかった。彼はそれらの映像を眼瞼のうちに見つめながら、果してこれでいいのかと考えた。皆の生涯を――運命を、よいようにと希望しながら、茲まではまり込んでしまったのだ。然しこれは一時の経路なのだ、これを通り越せば凡てよくなるだろう、と彼は考えてみた。それには先ず第一に、依子の病気を治さなければならなかった。
彼はそっと手を伸して、依子の額に触ってみた。所がその触感を知る前に、彼はぎくりとした。依子がぱっちり眼を見開いた。依子は天井を見つめていたが、俄に叫びだした。
「お母ちゃん、お母ちゃん!」
彼と兼子とは突嗟に起き上った。幾代も起き上った。然しその時にはもう、依子は眼を閉じてうとうとしていた。
「夢を見たのでしょう。」と幾代は云った。
三人共それきり一言も云わなかった。また各自に床についた。
依子の熱は翌日になってもさめなかった。朝が七度六分、午が七度八分だった。