Classiques japonais avec furigana
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あきかぜとはは
尾崎士郎短篇集
尾崎 士郎
Lisez 尾崎士郎短篇集 (あきかぜとはは) de 尾崎 士郎 (おざきしろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 108 032 caractères · 216 écrans
んですが」
「なるほどね」
伍一の眼には皺くちゃのニコニコ絣を着た多吉が勝手放題な法螺を吹きちらしながら自動車の中にふんぞりかえっている恰好までがありありと見えるようであった。その日ぐらしの運転手が「ことによったら」と思うのももっともであったが、しかしこのどさくさの中で望み得べくもない奇蹟を夢みてうろついている人間が、いよいよ駄目だという見当がつくと急に自分の姿に立ちかえるときのおどろきが彼の頭に笑い去ることのできない幻影となって残るのであった。二、三本の酒で急に調子づいてきた丈吉は伍一と同じ部屋で枕をならべて横になってからでも、かすかな寝息を立てたと思うと急にゲラゲラと笑いだしたり、しばらく経つと落ちついた声で外廓的な政治団体についてこまごまとはなしだしたかと思うと、途中で言葉を途切らせ、「やっぱり自首すべきじゃない」なぞとひとりごとを言ったりしていたが、となりの人声で眼をさました四つになるマユミが眠っている母の腕をすべりぬけてむくむくと床を這いだし、「おじちゃん!」と呼びながら襖をあけて入ってくると、
「ああ、――」
と、丈吉は感傷的な瞳をかがやかしながら蒲団の上へ起きなおって、マユミを膝の上へしっかりと抱きあげた。