Classiques japonais avec furigana
ja-reading.com
Lisez des classiques japonais en ligne avec furigana. Filtrez par niveau JLPT, touchez un mot pour le sens et traduisez une phrase.
まぼろしのかなた
幻の彼方
豊島 与志雄
Lisez 幻の彼方 (まぼろしのかなた) de 豊島 与志雄 (とよしまよしお) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 41 763 caractères · 84 écrans
蟀谷のあたりがぴくぴく震え、眼窩が陥入って、眼玉が円く飛び出ていた。ただ頬から眉へかけた淋しみと、夜具の外へ投げ出してる手指とに、昔の面影が僅かに残っていた。節々が凹んだしなやかな細い指だった。順造はその指先をそっと握ってやった。
「あなた!」
声に驚いて顔を挙げると、彼女は眼をぱっちり開いていた。
なに? と見返した眼付で彼は尋ねた。
彼女は何とも云わなかった。目玉だけが作りつけのように飛出してるその眼で、じっと彼の顔を眺め、それから天井の四隅を眺め、そしてまた薄い眼瞼を閉じた。
眠ってるのか覚めてるのか、見当がつかなかった。夢現のように時々眉根をしかめた。
彼はいつまでも其処を去り得なかった。考えつめて――何をだかは分らないでただ考えつめて、頭のしんが痛くなった。思い切って立ち上った。
忍び足で室を出て、忍び足で離れの室へはいった。看護婦の横に、順一が無心の寝顔を見せていた。順造はその枕頭に、また長い間坐り込んだ。同じく陰惨な唸り声ではあったが、出産の時の張りきった力の叫びとは違って、滅入るような静けさの冷たい唸り声が、秋子の室から響いてくるような気がした。