Classiques japonais avec furigana
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ひかげのまち
幻の探偵雑誌5 「探偵文藝」傑作選
松本 泰
Lisez 幻の探偵雑誌5 「探偵文藝」傑作選 (ひかげのまち) de 松本 泰 (まつもとたい) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 52 797 caractères · 107 écrans
遊園地の鉄柵にはもう老人の姿は見えなかった。無論私の落した緋房などはなかった。
其晩、私はじっと下宿に落着いている事が出来なかった。夜食を済せるとフラフラと殺人のあったストランドを廻り歩いて夜更けて宿へ帰った。
翌日も、翌日も、私は恐ろしいその夜の出来事計り考えていたが、それでも職業紹介所へ行ったり、新聞社へ寄って求職の広告を出したりした。職業紹介所ではホテルの皿洗いの口と、郊外の某家の下男の口と、倫敦から三十哩程離れた華族の別荘の犬ボーイの口があった。最後の口がよさそうなので、こちらは日本人の事であるから、一応手紙で照会して貰う事にした。紹介所を出ると、二三日前遊園地のわきで緋房を踏み隠した老人が扉口に凭りかかっていたが、私を見て叮嚀に挨拶をした。
「こんな遠くまで来ているのかね」
「ヘイ、いいお天気で誠に結構でございます。ヘッヘッヘ」老人は頓珍漢な挨拶をして愛想笑いをした。
三日目の新聞にも、ストランドの路上の殺人事件に就ては、一行の後報もなかった。柏が私が何をしているかと思って覗きに来たのはその晩であった。
「どうだ職業は見付かりそうかね」
「犬ボーイの口がある。